第一部 「蠢動」  -  第二章「九天玄女」

 亀伏山の砦は思っていたより大きく、そして堅牢そうだった。李逵は、漸く(ようやく)辿(たど)り着いた砦の(さく)に身をあずけ、これまでの苦行(くぎょう)に想いを()せていた。危なかったと思った。いつ皆殺しにされていてもおかしくなかった。
一つ一つのささやかな幸運が、やがて大きな僥倖(ぎょうこう)(もたら)せてくれた。
李逵はそこに、人の力だけではない、何か大きな天命のようなものを感ぜざるを得なかった。
天は(じょう)さんを(たす)けなすった。李逵はそう思った。
 砦は、半径一里ほどの半円を描いていた。頑丈な木の柵が三段に組まれていて、さすが蘇源が築いた砦だった。柵と柵の間には、落とし穴や檑木(らいぼく)など、様々な罠が仕掛けられていた。巧妙に仕組まれてはいるが、千人規模の大部隊に襲撃されたらとても持ちこたえられそうになかった。

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