第一部 「蠢動」  -  第三章「春雷」

 所々雲に隠されてはいたが、夜空には、ほぼ満天の星と言えるほどの星達が輝いていた。夕方から降り出した雨は一刻ほどで止み、その後には、昼の暑さを払拭するように冷涼な風が吹き抜けて行った。腹をくちくさせた面々は、思い思いに激戦の後の身体を休めていた。
「さすがは頭領だったな」
「そうよ、俺は絶対に頭領が勝つ。そう思ってたぜ」
「そうか。負けたらどうしようって、騒いでたのはおまえじゃなかったか」
「そんなことねえよ。俺は、最初っから信じてたって」
 あちこちで、そんな他愛のない話し声が聞こえていた。
 公孫勝、李逵をはじめ、主要な面々は雪華と黄玉の部屋に集まっていた。九天玄女、時遷(じせん)の顔も見えた。
「公孫勝様。策が見事に成功されたそうですね」
 雪華が言った。蝋燭(ろうそく)(あか)りが、ぼんやりと室内を照らしている。
「皆のおかげです。大変なはたらきだった。正直私も、ここまでの働きをしてくれるとは思わなかった」
 公孫勝の言葉は、賛嘆ともとれるものだった。

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