第一部 「蠢動」  -  第三章「春雷」

 どんなに仕掛けても、挑発には乗ってこなかった。禁軍歩兵本隊が最前線に出て来ていた。騎兵は歩兵の後方に、幾分距離を置いて待機している。じりじりと前に押し出して来てはいるが、総攻撃という態勢ではない。陳達は、なす(すべ)がないという顔をしていた。
「頭領、これでは(らち)があきませんな」
 董超の声にも、(かす)かな苛立(いらだ)ちが感じられた。
「奴等が乗ってこないことには、公孫勝殿の策も使えん」
「それだけ慎重になっているということですかな」
「それもあるだろうが、俺には、奴等が本気になった。そう感じるんだ。昨日とは違い、(はだ)がひりつく感じがする」
「そうですな、昨日はどこかなめているようなところがありました」
 陳達と董超の意見は一致していた。
「一の木戸の近くにまで引き付けないと、この策は意味がねえ。董超、いい案はないか」
 董超は馬上で考え込んでいた。

全文をPDFで読む