朝から嵐の予感がしていた。西の空が黒々とした雲でおおわれ、なまぬるい風が肌にべたつくように感じられる。杜遷は部下を待っていた。遠くで稲光が見え、雨も昼過ぎからは強さを増している。久しぶりの嵐だ。杜遷は独り言を呟いた。宮城が騒がしい。その一報を運んできたのは、杜遷が信頼している侠の一人だった。何かが心に響いた。だが、はっきりと感じたわけではなかった。だから、引き続き監視するようにとだけ命じた。
宋家党の事件が起きてすぐに、杜遷は開封府に遣いを出した。本当は、すぐにでも救出に向かいたかった。黒旋風と宋家党の若者達が、からくも脱出したことを知った。それまで、見えないところで黄文柄の邪魔をした。廂軍を荷車で遮ったり、兵の糧食に眠り薬を混ぜたりしていた。姑息な方法だったが、開封府の元締めの指示を仰いでいないうちは、その程度のことしか出来なかった。