第一部 「蠢動」  -  第四章「宋家党」

南門を(くぐ)り抜けた。雨は勢いを弱めている。
「時遷殿、戻る時の支障になる。あの衛兵達を片付けよう」
民家の裏に隠れた後、公孫勝がそう時遷に言った。
「分かりました。では私がしておきます。公孫勝様は、早く曹瑛殿のもとへ」
公孫勝が何か言いかけたが、黙って頷いた。時が惜しい。それは二人の共通の思いだった。
「では、時遷殿に頼むとしよう。十人ほどいるようだが」
「半刻。それで終わらせます」
ちょっと出かけてくる、その程度の答え方だった。
公孫勝は、後ろも振り向かずに宮城へと駆けた。嵐が幸いして、人に見咎(みとが)められることもなかった。
南門の半里ほど手前で、主のいない水月に出会った。残月と蒼月を見ると、嬉しそうに駆け寄って来た。水月は何かを訴えるような目をしている。南門のすぐそばに、三頭の馬を残してきた。嵐なので、人に見られることもない。城門を守る兵士も、監視所に詰めたままだった。水月はようやく落ち着いたようだった。残月と蒼月は、そんな水月を慰めるような素振りをしていた。

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