第一部 「蠢動」  -  第四章「宋家党」

 広場の静寂を破ったのは、怒涛(どとう)のように押し寄せる軍馬の(とどろ)きだった。
河東路経略安撫使(かとうろけいりゃくあんぶし)杜愔(といん)将軍は何処(いずこ)か」
 先頭の、華々しい甲冑(かっちゅう)を着込んだ将が呉秉彝(ごへいい)か。杜愔はそう思った。
「杜愔将軍でありますか。私は、開封府から派遣された呉秉彝です」
 開封府というところに、妙に力が篭っている。そんなことが自慢か。杜愔は笑いたくなった。
「遅れて申しわけありません。早速(さっそく)、賊の討伐に入ります」
 呉秉彝は意気込んでいる。将軍に昇って初めての任務だった。しかも、至って楽そうな任務だ。これで、手柄を立てられる。そういう思いが、顔に現れている。
「あの砦にいるのが賊ですな。あれで全部ですか。二百ほどしかいないようですが」
 こんな賊に何をしているのか。そういう言い方だった。
「戦は終わった」
 杜愔が、静かに言った。

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