第一部 「蠢動」  -  第一章 「政和三年春」

 「こりゃあ大変だぞ。宋の小娘のところに遼の将軍が来てるとはな。それも、あれはかなり上の将軍だ。りっぱななりしてやがった。話は聞こえんかったが、親しそうにはしてたな」
 李吉は思わぬものを拾ったと、心の中でほくそ笑んだ。格別用事があって宋家村に来たのではない。ふだんは太原府の瓦子(がし)で、とぐろを巻いて遊び呆けているだけだった。遊ぶ金がなくなり、宋家村に働き口を捜しに来ただけだ。浪子(ろうし)仲間から、宋家村に行けば何がしかの仕事があると聞いていた。金払いもいいと聞いている。だから金がなくなった時、すぐに宋家村に行こうと思った。おまけに、宋家の跡取り娘は桃花のように美しいと聞いていた。村に来たついでに、その娘も見てやろうと門から覗いていたら、遼将と話す娘を見てしまったのだった。

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