第一部 「蠢動」  -  第一章 「政和三年春」

 陽は中天を過ぎていた。李逵達は、石勇が担いできた水や食料を交互に摂り、一番近くの民家で用を足したりしていた。南門周辺の民家は時ならぬ騒動に仰天し、ほとんどが家を捨てどこかへ避難している。こんなことでもなければ、きっといい春の日和だったのだろうと曹瑛は思った。
「夏でなくてよかった」
 曹瑛は小声で呟いた。
 暑い夏なら、雪華の火傷から毒が回るのも早いことだろう。水月の上で前のめりになっている雪華の布を替えながら、曹瑛はそう思っていた。火傷は深いものが胸に二つ、浅いものが背と両脇に二つずつあった。合わせて六箇所。胸が最もひどく、乳首は両方とも失われていた。丁洪の異常さが、あらためて曹瑛の脳裏に浮かんだ。死んでよかった。いや、死なねばならない男だった。

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