「熱い」
そう怒鳴って、黄文柄は器の茶を桌にぶちまけた。
心が落ち着かなくて仕方がなかった。
「魯櫂の奴め。儂を巻き込みおって」
そう独り言を言っては、落ち着きなく辺りを見回していた。従者がまかれた茶を慌てて拭き取っていた。黄文柄は従者のしぐさにまで腹がたった。何もかも面白くなかった。まさか禁軍まで敗れるとは、思ってもみない事態だった。禁軍の都監が二人も死んだ。都虞候も二人犠牲になった。兵士にいたっては三百を超える死者を出した。考えられない失態だった。賊は初め、数人しかいなかった。黄文柄は、魯櫂の屋敷で起こった惨事の報告を自分の耳で聞いたのだ。その時は、曹瑛という太原府在住の娘、その隣に住んでいた蒋唐という商人、そして何故か袁偉、この三人だけだったはずだ。それに黒旋風李逵と正体の分からぬ大男が加わり、全員でも五人の集団だったはずだ。それが廂軍を蹴散らし、さらに二人の若者が加わり南門を占拠されてしまった。