第一部 「蠢動」  -  第四章「宋家党」

「今日を最後にする」
 杜愔(といん)に呼ばれた興仁貴(こうじんき)は、黙って肯いた。
 陽が昇って一刻ほどは経っていた。爽やかな風が山肌を撫でて、春らしいうららかな一日を予感させた。
「もう、この(いくさ)を終わらせよう。何のための戦だったか、どうして戦になったのか、そんなことはもういい。ただ、儂はそう思ったのだ。儂は宋雪華に会う。そして話がしたい。敵としての出会いではあるが、それも運命(さだめ)だったのだとな」
 杜愔の目は澄んでいる。迷いも見られなかった。
「今日の戦は」
 興仁貴が訊いた。
「全力を尽くす。それが、あの者達への礼儀だ」
 杜愔がきっぱりと言った。
「分かりました。武人としての誇りをかけて、全力で戦に向かいます」
「ただ、人死(ひとじ)には少ないようにせよ」
「心がけます」
 興仁貴は、思わずほっとしている自分に気付いた。敵ではあるが、殺したくはない。いつからか興仁貴は、そんな想いをいだくようになっていた。

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